大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)2347号 判決
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【判旨】
原告が同年一月一一日午後五時四〇分ころ本件マンション内において受傷したことは全当事者間に争いがない。<証拠>を総合すると、原告が本件マンションの三階廊下を歩行中、被告久野宅であつた三〇三号室の玄関口東側の流し台の南壁面に設置されたガス元栓口の開口部からガスが流出して室内に充満し、それが室内にあつた電気温風機のヒーター又はホームコタツの発熱体によつて着火して爆発し(右のガス元栓の開口部からガスが流出したこと及び爆発があつたことは原告と被告宮本との間において争いがない)、同室の出入口の鉄製ドア(高さ1.8メートル、幅0.8メートル)が吹き飛び、これが原告の頭部に強く当たるとともに倒れた原告の上に落下し、原告がその衝撃と爆発熱とによつて、急性硬膜下血腫・脳挫傷・第二頸椎軸(歯)突起骨折・頭蓋線状骨折・全身熱傷(二、三度)の傷害を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。
二そこで、右ガス元栓開口部からいかにしてガスが流出するに至つたかにつき検討するに、当時、当該ガス元栓口は使用されておらず、かねてから、その開口部にゴムキヤツプがはめられていたことは全当事者間に争いがなく、<証拠>によると、爆発当時、右ゴムキヤツプが元栓開口部から外れており、しかも、元栓が全開状態になつていたこと(これらのことは原告と被告宮本との間においては争いがない)、右元栓口は、ガス湯沸器用に設置されていたものであるが、被告久野は、入居後間もなくガス供給が開始されてからもこの元栓口を全く使用しなかつたこと、事故当日、被告久野は、午前八時ごろ、登校するため部屋に施錠したうえ外出したが、その際ガスに関する異常な徴候は無かつたこと、その後、同日午後零時三〇分ころ、ガス会社の調定係が被告久野宅のガスメーターの検針を行つたが、その時点で被告宅へのガス供給を示すメーターの針は静止状態にあり、また、ガスの臭いなどの異常な徴候は全く無かつたこと、被告久野が外出してから爆発が起こるまでの間、被告久野宅に外部から人がはいりこんだことを示す形跡は無いことが認められる。そして、右認定事実からは、問題のガス元栓は、被告久野が入居する以前から全開状態にあつたか、又は、被告久野が、入居後、何かの拍子にこれに触れ全開状態になつたか、いずれにせよ事故当日被告久野が外出するまでに全開状態にあつたところ、同日午後零時三〇分ころまでは、開口部にゴムキヤツプがはめられていたため、ガス流出に至らなかつたものの、その後、もともとゴムキヤツプのはめ方が不完全であつたか又はゴムキヤツプ自体が当該開口部をふさぐものとして不完全であつたかいずれかの理由でゴムキヤツプが元栓開口部からはずれ、その結果ガスが流出したと推認するのが相当である。
三次に、<証拠>によると、本件マンションは、鉄筋四階建で一階に二戸、二階から四階までに各四戸の居室があり、ガスは、各居室に個別メーターをとおしてガス管によつて供給されていること、三〇三号室においては、本件で問題となつている流し台南側の壁の湯沸器用の元栓口のほか、風呂釜用、流し台横のガスレンジ用に各一個及び和室の壁に一個、合計四個の元栓口が付いていることが認められる。これらの事実にかんがみると、本件ガス配管施設は本件マンションの一部としてこれと一体をなす内部設備にあたると認めるのが相当であり、したがつて、同施設は、民法七一七条一項にいう土地の工作物に該当するというべきである。
ところで、<証拠>によると、使用されていない元栓口の開口部には通常ゴムキヤツプをかぶせることが要求されることが認められるが、その趣旨は、元栓は、何かの拍子に開くことがありうるから、その場合になおガス流出を防ぐには、ゴムキヤツプを開口部にはめるのが有効であるということであることは明らかである。そうだとすると、元栓開口部のゴムキヤツプはガス配管施設の一部をなすものであり、また、非人為的な力が加つたことによつてゴムキヤツプが本来具えているべき性質を欠いているといわなければならない。
以上論じたところによると、本件ガス配管施設の設置、保存には瑕疵があつたとするのが相当である。
四被告久野が三〇三号室の賃借人であり入居者であつたことは前記一のとおりであるから、被告久野は本件ガス配管施設の占有者であると認められる。
<証拠>によると、被告宮本は、本件マンシヨンの各居室の賃貸人かつ管理人であり、本件マンシヨンの一階で自ら経営する喫茶店を事務所とし、また本件マンシヨンの道路を隔てた筋向いに自宅があり、各居室の合鍵も保管していること、被告久野は、学生の単身生活者で部屋の施設について管理能力が十分でなく、かつ、長期入居が予定されてはいなかつたこと、被告久野が三〇三号室に入居したのは事故直前の昭和五三年一二月で、それ以前は被告宮本が本件ガス配管施設を全面的に管理支配していたことが認められる。そうすると、被告宮本は本件ガス配管施設を管理支配でき、その瑕疵を修補しうる立場にあつたというべきで、被告久野が占有者であるからといつて被告宮本が占有を全面的に排除されているということはできないから、被告宮本も、被告久野と重畳して本件ガス配管施設を占有していたものと認めるのが相当である。
そして、被告らが、元栓開口部にはめてあつたゴムキヤツプが完全かどうか確認したことを認めるに足る証拠はないから、被告らが本件ガス配管施設の占有者として当該施設からのガス流出による事故の発生防止に必要な注意をしていたと認めることはできない。
被告らの責任は重畳的であるから、被告らは、それぞれ、原告の受けた損害を賠償する義務がある。
(寺田逸郎)